大昔、火を利用する過程で人類は燃料の草木のなかに良い香りを漂わせるものがあることを知った。時代を経てコロンブス一行は、たどりついた島で乾いた葉を贈られた
日本には南蛮渡来の珍品として入ってきた。ザビエルが鹿児島に上陸した時、ポルトガルの船員がぷかぷかやっているのを見て人々は言った。「南蛮人は腹のなかで火をたいとる」(「煙草おもしろ意外史」文春新書)
漱石の作中の猫は「なぜ人間は口から煙を吸い込んで鼻から吐き出すのであるか」といぶかったが、人間の嗜好(しこう)を猫は知るよしもない。映画の名場面や歌の文句の小道具にと、たばこが居場所を種々獲得したのも今は昔
紫煙をめぐる風景を、健康問題が一変させた。健康うんぬんは吸う人だけにとどまらない。受動喫煙が社会問題化するに至っては喫煙者は肩身が狭い。嫌煙派の後押しを背に、あすから大幅に値上げされる
喫煙者の半数前後が「これを機に禁煙に挑戦する」と回答したアンケート結果が複数ある。「きょう限りで」という人も多分いる。赤城の山も今宵(こよい)限り、と別れを惜しんだ新国劇のように、刀ならぬたばこを月にかざして感慨に沈む人もいよう
テレビでは、医師と俳優の舘ひろしさんが「禁煙するのに一番大事と思うことは?」「気合ですか」「まずその考えを変えていきましょう」とやりとりするCMも流れていた。悩んで本数が増える人もいるだろう。
春秋 西日本新聞 2010年9月30日
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