「ある時は片目の運転手、またある時は老巡査…」。七つの顔を持つ探偵に片岡千恵蔵さんが扮(ふん)した映画「多羅尾伴内(たらおばんない)」にはそんなせりふがあった。終戦間もなくのことだ
1970年代にピンク・レディーが歌った「ウォンテッド」には、次々に変装して逃げ回る恋泥棒が登場する。「ある時謎の運転手、ある時アラブの大富豪…」
21世紀の今は一国の指導者もネタを提供してくれる。過去の顔も含まれるが、つなげてみると結構多彩。理系研究者から政治家に転身した。カラオケでは「おふくろさん」を歌う。居酒屋も経営した。あだ名は「宇宙人」
首相になって40日が過ぎた。東京への五輪招致演説を行って帰国した日に、チャリティーファッションショーにも登場している。ワインレッドのジャケットに白いシャツ、黒いズボン姿で腰に手を当ててモデルのように舞台を歩いた
「ある時は居酒屋経営者、ある時はファッションモデル…」。手品師も想像で加えたくなる。日本を一度に大きく変えるには手品でも借りたい気分だ。手品師の小道具になるシルクハットも似合いそうだし…
臨時国会冒頭の所信表明演説で鳩山首相は「戦後行政の大掃除」を宣言した。多くの困難が待つ。脱いだシルクハットから手品師がハトを取り出すようなわけにはいかない。長い目で見守る気持ちを国民に持ってもらう努力なしには成功しない。首相の人間的魅力も試される。
春秋 西日本新聞 2009年10月27日
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