気分転換をしたいときには丸谷才一さんのエッセーも服用している。「…でせう」「といふ」調に気分を合わせると頭の中で換気扇が回り始める
最近読んだエッセー集「花火屋の大将」(文春文庫)に「コラム論からスパイ論へ」のタイトルで明石元二郎(もとじろう)のことが書いてあった。明治期の軍人(陸軍大将)だ。大佐だった日露戦争時に欧州を駆け巡り…
ロシアの革命派を扇動した「明石工作」で知られる。丸谷さんによれば「彼をたたへる賛辞は多い。じつに多い。なかでも有名なのは司馬遼太郎『坂の上の雲』で明石を描いてゐる箇所でせう」
古風な日本語はさておき、明石の人物像に引き込まれる。参謀本部からの工作資金100万円は、現代なら80億円くらいらしい。27万円が残った。どうしたか。ごまかすこともできたのに全額返した。使途明細書付き
歴史上、こんなエピソードを持ったスパイが何人いたであろうか、と書いた本もある(R・ディーコン著「日本の情報機関」)。「かういふふうに日本のスパイを褒められると、わたしは、あまり愛国の血が騒がないたちなのに妙に嬉(うれ)しくなるのですね」と丸谷さん
読んでいてうれしくなった。明石は九州男児だ。図書館で調べると、身なりなどには無頓着で「金やら、いらんばい」という感じの人だと分かった。誇れる傑物なのに出身地の福岡市でも知る人はそれほど多くなさそうなのは、なぜでせう。
春秋 西日本新聞 2009年11月18日
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